「うなぎは魚ですか? それともヘビの仲間ですか?」
もし飲み会の席でこう聞かれたら、あなたは自信を持って答えられますか?
「魚だとは思うけど、ヌルヌルしているし、鱗(うろこ)もないし……正直、自信がない」
そう思うのも無理はありません。実は、ウナギの正体については、古代ギリシャの哲学者アリストテレスでさえ「泥から自然に湧いてくる」と勘違いしていたほど、長きにわたって人類の謎だったのです。
しかし、結論から言いましょう。
ウナギは正真正銘の「魚類」です。そして驚くべきことに、あのヌルヌルの皮膚の下には、目に見えない「鱗(うろこ)」が隠されています。
この記事では、東京大学の研究チームが解き明かした「マリアナ海溝への3,000kmの旅」や、水産庁のデータを基にした「価格高騰の裏側」について、わかりやすく解説します。
読み終える頃には、普段何気なく食べているうな重が、単なる高級食材ではなく、地球規模の奇跡が詰まった「体験」へと変わっているはずです。明日の食事で誰かに話したくなる、極上の雑学をお持ち帰りください。
ウナギは魚類か爬虫類か?ヘビに似ている「3つの理由」
「どう見てもヘビにしか見えない」
その感覚は決して間違っていません。手足がなく、細長い体でくねくねと動く姿は、爬虫類のヘビそのものです。しかし、生物学的な分類において、ウナギとヘビは決定的に異なります。
決定的な違いは「呼吸」と「ヒレ」
ウナギが魚類である最大の証拠、それは「エラ呼吸」をしていることです。
ヘビは爬虫類なので、私たち人間と同じく「肺」で呼吸をします。水中に潜っても、息継ぎのために水面に顔を出す必要があります。一方、ウナギは水中の酸素をエラから取り込むため、水面に顔を出す必要がありません。
また、よく観察するとウナギには「胸ビレ」「背ビレ」「尻ビレ」があります。これらは魚類特有の器官です。
なぜヘビに似てしまったのか?
では、なぜこれほどまでに形が似ているのでしょうか? それは「収斂進化(しゅうれんしんか)」と呼ばれる現象です。
ウナギは、川底の泥の中や岩の隙間に隠れて生活することを選びました。その際、邪魔になる大きなヒレや太い体は不要になります。狭い場所にするりと入り込むために、あえて手足をなくし、体を細長く進化させたのです。
つまり、「生きる場所(ニッチ)に合わせて体を最適化したら、たまたまヘビと同じ形になった」というのが真相です。

衝撃の事実!ウナギには「鱗(うろこ)」が埋まっている
ここからが本記事のハイライトです。
「ウナギには鱗がないから、ユダヤ教やイスラム教の一部の戒律では食べられない」という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、生物学的にはこれは誤解です。
実は、ウナギには鱗があります。
皮膚の下に隠された「埋没鱗」
ウナギの鱗は、一般的な魚(タイやアジなど)のように皮膚の表面に重なっているのではなく、皮膚の下に埋まっています。これを専門用語で「埋没鱗(まいぼつりん)」と呼びます。
実際にウナギの粘液を綺麗に洗い流し、皮膚を顕微鏡などで観察すると、細長い小判のような形をした小さな鱗が、畳の目のようにびっしりと並んでいるのが確認できます。
なぜ鱗を隠す必要があったのか?
これには、ウナギならではの生存戦略が関係しています。
- 皮膚呼吸を助けるため
ウナギはエラ呼吸だけでなく、皮膚でも呼吸ができる珍しい魚です。雨の日には陸上を移動することさえあります。分厚い鱗が表面にあると皮膚呼吸の邪魔になるため、鱗を退化させて皮膚の下に隠しました。 - 粘液を保持するため
あの「ヌルヌル」は、泥の中での摩擦を減らしたり、陸上での乾燥を防いだりする重要なバリアです。鱗が表面に出ていると粘液が定着しにくいため、表面を滑らかにする必要がありました。
料理人が鱗を取らない理由
「でも、食べるときに鱗なんて感じないよ?」と思われたでしょう。
それは、ウナギの鱗が非常に薄くて柔らかいためです。加熱調理をすると、鱗の成分(コラーゲンなど)が溶けてゼラチン質になり、身と一体化してしまいます。だから、料理人はわざわざ鱗を取る処理をしないのです。
老舗のうなぎ専門店「登亭」などの解説でも触れられていますが、この「隠された鱗」こそが、ウナギが魚類である動かぬ証拠なのです。
アリストテレスも悩んだ「3,000kmの産卵旅行」の謎
ウナギが「魚」であることはわかりました。しかし、この魚には他の魚にはない、とてつもない「謎」がありました。
それは、「どこで生まれて、どこから来るのか誰も知らなかった」ということです。
2000年以上のミステリー
古代ギリシャのアリストテレスは、ウナギの解剖をしても卵が見つからないことから、「ウナギは泥の中から自然発生する」と結論づけました。それほどまでに、ウナギの産卵場所は謎に包まれていたのです。
この謎が解明されたのは、なんと2009年のこと。つい最近の話です。
日本の科学者が突き止めた「マリアナ海溝」
東京大学大気海洋研究所の塚本勝巳教授(現・日本大学特任教授)率いる研究チームが、執念の調査の末、ついに世界で初めて天然のウナギの卵を発見しました。
その場所は、日本から南に約3,000kmも離れた「マリアナ海溝」の近く(西マリアナ海嶺)でした。
壮大すぎるライフサイクル
ウナギの一生は、まさに冒険です。
- 誕生: マリアナの深海で卵として生まれる。
- 変態: 「レプトセファルス」と呼ばれる柳の葉のような透明な幼生になり、海流に乗って北上する。
- 変身: 日本近海に近づくと「シラスウナギ(ガラスウナギ)」に変身し、川を遡る。
- 成長: 日本の川や湖で5年〜10年ほど過ごし、黄色い「黄ウナギ」になる。
- 旅立ち: 成熟すると黒い「銀ウナギ」になり、再び3,000km離れたマリアナの海へ産卵に向かう。
私たちが普段食べているウナギは、この壮大な旅の途中で捕まえられたものなのです。

なぜウナギは高いのか?「謎」と「価格」の意外な関係
「ウナギが高い」という悩み。実はこれも、先ほどの「生態の謎」と直結しています。
「完全養殖」の壁
スーパーで売られているウナギのパックを見ると、「養殖」と書かれていますよね。しかし、これは「卵から育てた」という意味ではありません。
現在の養殖の99.9%は、「海から天然のシラスウナギ(子供)を捕まえてきて、生け簀で大きくしただけ」なのです。
卵から親まで育てる「完全養殖」は、技術的には成功していますが、商業ベースではまだ実用化されていません。なぜなら、「赤ちゃんウナギが自然界で何を食べているか」が長年わからなかったからです(最近の研究で、サメの卵やマリンスノーを食べていることがわかってきました)。
私たちが食べているのは「天然資源」そのもの
つまり、ウナギの供給量は、その年の「シラスウナギがどれだけ捕れるか」という自然任せの運に左右されます。乱獲や環境変化でシラスウナギが減れば、当然価格は高騰します。
水産庁のデータによれば、シラスウナギの採捕量は年々減少傾向にあり、ニホンウナギはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されています。
ウナギが高いのは、単なるブランド料ではなく、「まだ人類がコントロールしきれない野生の神秘」に対する対価とも言えるのです。
よくある疑問(FAQ)
アナゴやウツボとはどう違うのですか?
A. 親戚ですが、住む場所が違います。
ウナギ、アナゴ、ウツボはすべて「ウナギ目」に属する親戚同士です。大きな違いは生息域です。
・ウナギ: 海で生まれて川で育つ(降河回遊)。
・アナゴ・ウツボ: 一生を海で過ごす。
ちなみに、アナゴにもウナギ同様に小さな鱗があります。
電気ウナギは仲間ですか?
A. いいえ、全くの別物です。
電気ウナギは、名前に「ウナギ」とつきますが、分類上は「デンキウナギ目」であり、ウナギよりもコイやナマズに近い魚です。彼らは川で一生を過ごし、海へは行きません。
まとめ
ウナギという生き物が、単なる「美味しい魚」以上の存在であることがお分かりいただけたでしょうか。
- 正真正銘の魚類: ヘビに似ているのは進化の結果。エラもヒレもあります。
- 隠された鱗: 皮膚の下には、退化した小さな鱗がびっしりと埋まっています。
- 3,000kmの旅: 日本の川からマリアナ海溝まで、産卵のために海を渡ります。
次にうな重やお寿司でウナギを食べる時は、ぜひこの話を思い出してみてください。
「このウナギも、マリアナ海溝から3,000km泳いできたんだな」
「この柔らかい皮の下に、実は鱗が隠れているんだな」
そう想像するだけで、その味わいはきっと、今までよりも深く、尊いものになるはずです。
- 研究成果「ニホンウナギの産卵地点の発見」 – 東京大学
- ウナギをめぐる状況と対策について – 水産庁
- ウナギの生態|ウナギ大回遊の謎はどこまで解き明かされたか? – 登亭



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